電気通信大学の曽我部研究室(基盤理工学専攻)は強化学習(※2)、量子アルゴリズム(※3)、量子強化学習(※4)を基幹テーマとして研究を行っています。量子の不確実性(※5)と人工知能の技術を融合した「量子部分観測マルコフ決定過程(※6)による量子回路設計」に関する研究が独立行政法人情報処理推進機構2021年度未踏ターゲット事業の一環として新たな展開に向かっています。
量子コンピュータは「ゲート方式」と「アニーリング(※7)方式」の二つの方式があります。「ゲート方式」は汎用型の量子コンピュータであり、基本的な量子ゲートを組み合わせた量子回路を構築し計算を行います。量子ゲート回路の設計は、これまで古典コンピュータシミュレーションにより最適化を行ってきましたが、量子ビットの数が多くなると計算量が指数的に増えてしまうという問題がありました。より多くの量子ビットに対して回路設計を考えるには実機の量子コンピュータを使う必要があります。しかし、実機の量子コンピュータを使って制御と最適化を行うには、「波動関数の崩壊(※8)により量子状態を直接観測・制御することはできない」という量子力学の壁を克服しないと実現できません(図1)。
今回のプロジェクトでは、本研究室が得意とする強化学習の手法を活かし、「量子状態の直接観測不能」という問題を部分観測マルコフ決定過程(POMDP)問題に変換した、量子部分観測マルコフ決定過程(量子POMDP)手法の開発に取り組みます*1。量子POMDP理論の枠組みの一つは、2014年にMITのAaronson教授により密度行列(※9)を用いて提唱されていますが、未だ理論的な研究段階にとどまり、実用的なアルゴリズムはまだ確立されていません。我々は世界で初めて量子MDP理論を実機で演算できる量子回路モデルの開発に成功しており、本プロジェクトでは量子MDP回路モデルをさらに拡張した量子POMDP理論モデルを実装し、シミュレータと実機を活用して量子回路設計を行い、開発手法の性能を評価します (図2)。これにより現在の最速の古典スーパーコンピュータの1億倍もの処理能力を誇るとされる量子コンピュータ開発の最大の難所といわれる量子回路の設計において大きく貢献することが期待されます。
本プロジェクトは、曽我部研究室の部分観測強化学習に精通する木村友彰(基盤理工学専攻博士前期2年)が、上記の内容に基づき独立行政法人情報処理推進機構(IPA)2021年度未踏ターゲット事業の「量子コンピューティング技術を活用したソフトウェア開発分野」に応募し採択たものです。
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